「国際都市としての渋谷・原宿・青山の将来像」
〜交通・まちづくり、そして文化・芸術・祈り〜


 2003年1月18日午後1時、青山学院大学総合研究所ビル12階の国際大会議場にて、青山学院大学主催、東京都、渋谷区、港区、渋谷・青山まちづくり研究会ほか後援の国際学術シンポジウム「国際都市としての渋谷・原宿・青山の将来像〜交通・まちづくり、そして文化・芸術・祈り」が開催された。
このシンポジウムは、青山学院大学の建学の精神であるキリスト教の社会奉仕の精神に基づき、大学が地域のまちづくりに貢献しようという画期的な試みであった。「シンポジウムの趣旨」によると、「渋谷・原宿・青山地区においては、これまで交通関係の公共事業や都市開発事業が様々に計画され施行されてきた。それによって街が発展したこともあるが、逆に大きな力に委ねることで、本来持っていたこの地区の良さが失われてしまったこともある。…ここで受け入れる地元側に確たる姿勢・コンセプトがなければ、この地区も新宿・池袋のような平板な繁華街になりかねない。こうした背景から、最近、各種のまちづくり運動が起きつつある。…欧米では、これら諸問題に対する検討や学術的な連絡調整役を、地元の大学が進んで行うケースが少なくない。いわゆるサイエンスショップである」として、「今回のシンポジウムは、まず本学がサイエンスショップとして社会に貢献する一里塚として位置づけられるものである」とのことであった。

 当日は学生の授業を兼ねていたようで、学生を含む900名以上が300名定員の会場に押しかけたため、立ち見ならぬ「座りこ見」の人たちで会場から人が溢れるほどの熱気だった。参加者もさることながら、壇上に立ったパネリストも総勢10名を超える論客ばかりで、全員が時間をオーバーして発言したため、予定されていた青山学院管弦楽団のコンサートを中止したにも拘わらず、予定終了時刻1時間オーバーの5時30分まで白熱した討論が続いた。

 まちづくりは、地域の合意形成から

 発言順に紹介しよう。小倉渋谷区長、原田港区長の挨拶の後、伊藤滋東京大学名誉教授による基調講演が行われ、まちづくりでは地域での合意形成が最も大切である旨の発言がなされた。
続いて建築家の馬場氏による、「渋谷・原宿・青山〜都市文化の積層と波紋」と題された、この地域の建築や芸術活動に関する様々な映像集の紹介があった。
その後、「渋谷駅周辺整備ガイドプラン 」(GP21)について、委員長の森地茂東京大学教授による解説が行われ、さらに本シンポジウムを企画した井口典夫青学大教授のゼミ生が、渋谷の来街者を対象にデータを収集し、それを因子分析によって検討した結果等が報告される。後者においては、「風俗営業等が青山地域に流出するのを防ぐため、渋谷駅東口に芸術的モニュメントを置くことで、心理的抵抗感を与える」という具体的な提案までがなされた。
その他にも、住民による様々な意見・要望をとりまとめた「シブヤコモン」なる案が、建築家・渡辺徹氏によって紹介された。提言の趣旨は、渋谷駅の真上には高層建築物を建てず、空の広く見えるカルデラ型の広場空間を創出すべきであるというものだった。

 もはや容積率をアップしても資産価値は上がらない

 これだけ盛り沢山の内容のあと、ようやく休憩があり、後半のパネルディスカッションへと移った。
第1部では、井口教授の司会により、まず森地教授が再び「GP21」について述べ、駅前にデッキを張ることでどこにでもある陳腐な駅前再開発となってしまうのではという意見もあるが、「デザインを工夫することで解決できるのでは」との見通しを語った。これに対して、建築家の團紀彦氏は、単なる高層ビルの乱立とならない落ち着きのある街並みデザインについて、映像を交えて説明を行った。
次に日本政策投資銀行の藻谷浩介氏は、人口減少時代では「もはや容積率をアップしても地価や資産価値は上がらず、そのような高層ビル建設に銀行は融資しなくなる」との見通しを示し、今後は「名古屋のようなやたら効率的な大都市よりも、木造建築に花が咲いているような暖かみのある小規模のまちづくり」が受け入れられていくであろう、との次世代都市論を展開した。
最後に六本木ヒルズのイベントプロデューサーである平野暁臣氏が登場し、青山がイベントの舞台として魅力を失いつつあることを指摘した上で、自身が手がけている博多でのイベントの話を熱弁された。

 まちづくりを進めるには政治を変える必要性を感じる

 第2部のパネルディスカッションは、地元誌編集長の田嶋栄氏のDJばりの軽妙な司会により、まず「FROM1st」や「東急ハンズ」「QFRONT」などのプロデュースをした浜野安宏氏が紹介され、浜野氏の「同潤会アパートを森ビル・安藤忠雄による今のままの計画で建て替えたら、間違いなくこの地域は衰退する」との衝撃的な問題提起から始まった。次に地元ワタリウム美術館の和多利浩一氏より、商店会やまちづくり協議会などでの地域貢献活動の経験から、「地域でまちづくりの良い提案がなされても、区のトップレベルでつぶされてしまう。まちづくりを進めるために政治を変える必要性を感じる」との核心に迫る指摘がなされた。
さらに青山学院宣教師のジョージ・ギッシュ氏が、お住まいの青山での高層建築物反対運動の経験から、「大学も地域の課題に無関心ではいられない。建学の精神にもどって社会貢献活動をしなければ」との発言があった。
最後に岡本太郎記念館・館長の岡本敏子氏が、「高齢者が増えるから街が衰退するなんて大ウソ。大切なのは、そこに暮らす人たちが生き生きとやりたいことがやれること。若くても元気のない者が余りに多過ぎる」との強烈なメッセージを発信した。その勢いで各パネリストからは若者への強烈なエールが次々と送られ、最後の最後まで刺激的な白熱した討論が繰り広げられた。終了予定時刻を1時間過ぎていたため、会場はほぼ全員が着席できるほどの人数には減っていたが、熱心な聴衆が多く残っており、今後の当該地区のまちづくりに大きな種を植えたシンポジウムとなった。

 今後、これだけ多様な地域のエネルギーを行政がどう受け止め、まちづくりに活かしていけるかが課題となる。まず地域に入っていき、地域には多様な意見があることを知ることから始めなければならない。地域の多様な活動を支援するコーディネータ役を行政がきちんと果たすことができるか否かに、すべては掛かっていると言えよう。